ここでは、債権回収をご自身で行う場合のポイント、勘どころをご説明します。

ご自身で行うメリット・デメリットを知りたい方は、こちらをご覧ください。

自分で行うメリットとデメリット >

そもそも債権回収をするべき相手なのか?

もうあきらめた方いい、そういう相手なのか、それとも、あくまで請求するべき相手なのか。そのあたりの見分け方のポイントです。

ポイントは、

  1. 相手方に財産があるか
  2. 将来の収入が見込めるか
  3. 支援者・スポンサーなどがいるか

3点に絞られます。

まずは、1.相手に資産・財産があるかどうか

財産とは具体的には、次のものを指します。

  • 現金・預金
  • 株や投資信託
  • 積み立て型の保険
  • 自動車
  • 機械や設備
  • 売掛金・未収金
  • 土地・建物など

こういうものを持っている相手であれば、財産として売却したり、これらを担保にお金を借りて返済してもらうことが期待できます。
もっとも、これらを持っていても、すべて担保に差し出していて、余力がないというケースもあります。

次に、2.将来の収入が見込めるかどうか

もはや引退して年金生活をしている人で、資産もほとんどない、という場合は、深追いしても回収は難しいかもしれません。

最後に、3.相手に支援者・スポンサーがいるかどうか

資産はないが、能力・技術を見込んで、あるいは将来のことを考えて、支援しようという企業や人がいるかどうかもポイントになります。
ただし、支援者やスポンサーを「連れてこい」と強要することは違法になりますので、注意して下さい。

どうやって調査するか?

資産・収入・支援者があるかどうかについて、特別な調査方法があるわけではありません。
基本は相手方からの聴き取りです。

相手が企業ならば、決算書や試算表などの提示を求めます(上場会社ならIR情報として公開されています)。
強要はできませんが、お金を支払ってくれないならば、せめて情報提供はしてくれ、と粘り強くお願いするのがよいでしょう。

また、一方的に自分の利益だけを考えているわけではないことを示し「一緒に解決方法を考えよう」という姿勢を見せることも、重要になってくると思います。

企業の場合には、帝国データバンク、商工リサーチなどの調査会社の情報も利用できます。
これらは、短いものならインターネットで安い値段で入手できます。
詳細なものは、直接、各社に依頼する必要があります。
当事務所を経由してお申込いただければ、割引料金で入手できます。

相手方が個人の場合、不動産の登記簿謄本は、最寄りの法務局で入手できます。ただ、それ以外の情報は入手が困難とお考えください。

方針決定の基準

資産も収入も支援者もいないことが、はっきりしている相手なら、回収はあきらめた方がいいでしょう。
事業上の債権なら、貸し倒れ処理をすることによって節税対策にできますので、まったくの泣き寝入りにはなりません。
もっとも、これらは、外から見ただけではわからず、回収行為を始めてからあきらかになることも多いので、まずは、行動を起こすことも重要です。

回収をする、と決めた場合にとるべきステップを、以下に順を追って解説します。

相手自身に現状の確認をしてもらう

まずは次の点を、文書で提出してもらいましょう。
現状の確認と、相手方自身による支払予定日の確認です。

本来の支払日から2週間遅れたら、これくらいのことは要求してよいものと思います。

  • 現在の債務はいくらか
  • 本来の支払日はいつであったか(何日遅れているか)
  • いつ支払ってくれるか
  • 遅れたことについてのペナルティ

いきなり文書提出を求めるのは、いかがなものか、という考えも根深いようです。
そういう優しい(悪くいえば甘い)ところが、相手になめられる原因になっている場合もあるので、ニコニコしながらきついことを要求した方がいいと思います。

しかし、どうしてもためらわれるなら、口頭で約束してもらい、こちらから文書で確認しておけばよいと思います。

たとえば

「今日はありがとうございました。○月○日に、残金○○円を一括でお支払いいただけるとのこと、また、これに対しては支払い予定日である○月○日から、年3%をお支払いいただけるとのこと、ありがとうございます。○月○日をお待ちしております」

などと記載して、相手方にファックスや電子メールで送付し、「送信OK」との記録もプリントアウトしておきます。

特に、次のような場合には、初期段階でそうした文書を交わしておくのが重要です。

  • 個人間で貸し借りをした際に、借用証をちゃんと交わしていない場合
  • 事業者の場合
  • 口約束で取引が始まっている場合
  • 取引条件がはっきりしない場合

支払日の1週間前・3日前・前日に確認の電話をかける

何ごとも先手を打つことが大事です。
ただ待つのではなく、1週間前、3日前、前日くらいには電話をかけて支払いしてもらえるかどうか、確認しましょう。
複数の支払先があり、全額を支払う資金がない、という場合には、「うるさい相手にはまず最初に支払っておこう」という心理が働くものです。

催告書の発送(内容証明郵便も含む)

相手方が約束しても支払ってくれない場合や、確認文書を出してくれない場合には、こちらから「催告書」を出すしかありません。
自分が本気であることを示す場合には、内容証明郵便で出すのがよいでしょう。

内容証明郵便というのは特殊な郵便で、相手方に送られたのと同じ内容のものが、郵便局に保管されます。
これは「○年○月○日に、まちがいなく、このような内容の文書が相手に差し出された」ということを郵便局が証明するものなので、後で「言ったいわない」「そんな書類は届いていない」という言い訳を封ずることができます。
後日、裁判で証拠にする可能性を前提としているので、ビジネスの世界では、内容証明郵便を出すことは「宣戦布告」を意味します。

みなさん自身でも出すことは可能です。具体的な方法の解説とテンプレート(ひな形)も用意しましたので、こちらをご覧ください。

内容証明郵便を自分で出す方法 >

交渉を続ける

内容証明郵便で催告書を出した場合には、相手方はかなり深刻にとらえるでしょう。
態度を硬化させることもあるでしょう。
しかし、交渉を止めてはいけません。
相手方の立場にも配慮しつつも、厳しく交渉を続けましょう。

この時、ただ「支払え、支払え」と迫るのではなく、相手方の言い分や、財産、これからの収入などについて、じっくり話を聞いて、現実的に支払える方法を一緒に考えていく、という姿勢が重要です。
また、交渉が決裂してしまったら、相手の財産を差し押さえたりせざるを得ないこと、そうなったら、銀行や取引先から、信用を失ってしまうことを理解してもらい、そこまで行く前に支払ってくれるように説得を重ねます。

一括で支払いをするのが難しいならば、じっくり長期分割で回収していくのもよいかもしれません。この場合には、担保を取ったり、保証人をつけてもらったりして、万が一将来の不履行になったとしても、別ルートで回収できるようにしておきたいところです。

合意文書をつくる(公正証書の作成)

交渉の結果がまとまったら、それを文書にしておくことをお勧めします。
最低限、本人(法人なら双方の代表権がある者)が調印しておくべきです。
支払日がかなり先の場合や、分割払いの場合には、公正証書にしておくことをお勧めします。

これは「公証人」の前で、支払いに関する約束をすることです。
公正証書は判決と同じ効力を有します。もし、相手が約束を破って支払いをしなかったら、あらためて裁判を起こすこと必要もなく、直ちに強制執行をすることができます。
したがって、相手方に対しては、なんとか実行しようという心理的なプレッシャーになり履行される可能性が高くなります。

【合意書の文例】
最低限以下の点は押さえてほしいところです。
テンプレートを用意しました。

債務承認弁済契約書 >

合意文書を作成する際のポイント
交渉に際しては、次にあげた6つの項目を、つねに意識してください。
あるポイントで譲歩するなら、あるポイントでこちらが何か有利な条項を入れてもらうようにする、というのが基本姿勢となります。

  1. 債務の確認
    合意時点でいくらの債務があるかの確認です。
    元本だけでなく利息や、遅延損害金についてもしっかり記載します。
  2. 支払い方法
    1.で負っている債務を、どのように支払うか、についてです。
    一括払いなら、支払日と支払い手段(現金か振込か、など)。
    分割払いなら、その期日を記載します。
  3. 不履行の場合の措置
    一括払いなら、不履行の場合のペナルティを定めます。
    分割払いなら、不履行があった場合には、分割払いではなく一括で支払ってもらうこと(これを「期限の利益の喪失」という)、および遅延損害金について定めます。
  4. 債務免除条項
    相手方が約束どおり支払った場合には遅延損害金の支払いを免除することを定めています。「アメとムチ」の場合の「アメ」です。
    誠実に支払えば、支払額が少なくなるので、相手方が約束を守る動機づけになります。
  5. 清算条項
    この件に関しては、合意書に定めた他には、債権債務がないことを書いています。
    「本件について」という記載を入れないと、他に取引があった場合に、それらについても債権債務がないことになってしまいますので、注意してください。
  6. 費用負担
    合意書には印紙を貼らなければなりません。
    国税庁のホームページに、費用について解説があります。
    https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/10/05.htm

合意に達しない場合

相手方が合意文書の作成にも応じないなら、裁判を起こすほかありません。
裁判所に事案を持ちこむ手続は複雑ですので、弁護士にご相談されることをお勧めします。弁護士に相談する場合の準備や流れについては、「債権回収の流れ」のページを参考にしてください。