反社会的勢力とのつながりが噂される建設会社社長から回収

小松さんは、イタリアのH社の日本代理店として、ヨーロッパの資産家が保有している超高級なアンティークウォッチを、日本の資産家に販売するビジネスをしていました。
東北地方のあるS建設会社の社長は、数年前からのお得意様で、今回は、資金に余裕があるので、アンティークウォッチを投資として買いたい、といわれ、数十個の時計を預けることになりました。

「お手もとに置いてみて、お気に入ったらご購入ください。そうでなければ、しかるべき時期にお返しください」というような信用に基づく売込・取引がなされているのです。逆にいえば、手もとにある品物を勝手に処分してしまうようなことのない、相応の社会的地位と信用のある方を相手にするべきビジネスだということです。

私たちの常識では「お金ももらわないのに、物を渡してしまって、万一のことがあったらどうするんだ」と考えてしまいますが、高級美術品の世界では、そんなことはあたりまえだそうです。

17億円分の時計を預けたものの、支払いが無い…

S建設の社長は「全部を買うよ」と連絡してきました。代金は、17億円!

そのうち、3億円分は4月末日を期日とする約束手形が振り出されました。
残りの14億円は、5月末日に現金で支払うとのこと。

ところが、4月の中旬になってS社長から「4月末には支払ができないから、少し待って」という連絡が入りました。

小松さんは、困り果てました。
S社長は、こわい筋とのつながりの噂もある人物でした。
いままでの取引で、たくさんお世話になっていることもあってS社長に強く出ることができません。
身がすくんでしまって「時計はいったんお返しください」ということすらできないのです。また、すこし待てば「数年かかってもさばけない数の時計が売れる」という欲もありました。

しかし、H社本社から、弁護士を依頼して、直ちに法的に対処せよとの指令があり、私に依頼があったのです。EUの某国からも担当者がふたり来日しました。

私は、成田でイタリアの担当者を迎え、翌日には現地へ向かうことにしました。
S社長は、噂どおりのくせ者でした。私が、現地入りするまでに、脅し、金品の提供、色仕掛け、あらゆる方法を駆使して、懐柔しようと試みてきました。もちろん丁寧にお断りします。

資金回収のメドが立たず、倒産の危機に

現地での交渉は、2泊3日に及びました。
その間、S社長は一度も現れませんでした。
S社長の命を受けた秘書室長と顧問弁護士が代理人としてやってきて、交渉を繰り返しました。日欧の文化のちがいもあって、何度も交渉決裂の危機に瀕しました。

イタリアの担当者は「金を払ってもいないのに、17億円分の時計を抱え込んで、返還しないのは犯罪だから、直ちに警察を呼んで、S社長らを逮捕させてくれ」というのです。
「時計を持って帰れなければ、自分たちは、イタリアで刑事告訴されて刑務所に入らなければならない」そういって、泣き出したりもします。

しかし残念ながら、日本の警察はそのようなことでは、S社長を逮捕したりはしません。「民事不介入の原則」があるといって「まずは民事裁判で決着してください」というのがせいぜいなのです。

しかし、裁判をしている時間の余裕はありません。
裁判の結果を待っているあいだに、倒産してしまうかもしれないのです。

こちらが持っている交渉カードは、たった1枚の約束手形、そして、展開によっては裁判所で保全処分をかける用意がある、その2点だけです。
S建設が支払資金を用意できなければ、約束手形は不渡りとなり、ただの紙切れになってしまいます。S社長が時計を隠してしまえば、H社は顧客から預かった17億円分の商品を失うことになりかねません。それだけでなく、アンティーク業界での信用を一気に失います。倒産の危機です。
他方で、S建設も、不渡りを出せば銀行の信用を一気に失います。こちらも、本業に大きな影響がでることは必至です。二度の不渡りを出すと「銀行取引停止」となり、事実上倒産ということになってしまいます。

ギリギリの交渉の末、「2億円の回収」と「15億円分の物品返還」で和解

4月30日の直前まで、ギリギリの交渉が続きました。
私は、手にしていた手形を、一旦、銀行に持ち込むまでしました。本気を示すためです。
結局、以下の内容で和解することができました。

S社長は2億円の金を用意する。私は銀行から手形を取り戻し、S社長に返す。
その代わりに、H社は、S社長の選ぶ2億円分のアンティークウォッチを引き渡す。 残りについては契約を解除する、

2億円の小切手を受け取り、手形を返しました。
時計の返品を受けました。すべての検品を終えて、へとへとになって帰ってホテルの部屋に帰り、呆然としていました。
すると、まだ顔も見たことのないS社長から電話がありました。
「先生、きつかったけど、いい解決をしてくれた。お礼に、家族で旅行に招待したいけどどうだ?」といわれました。
もちろん、これも丁寧にお断りしました。
数年の後、S社長の会社は、脱税などで告発され、社長夫妻が逮捕されたとの新聞報道がありました。

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