返済の条件にあいまいなところがあり、きちんと支払ってもらえない

  • 依頼者 : ガソリン等の卸売業
  • 相手方 : ガソリン等の小売店

約1300万円を貸していた相手が倒産

依頼者は、相手方に対し、ガソリン等の石油製品を継続して卸しておりました。
ある時期、相手方の資金繰りが苦しくなり、約1300万円の支払が滞りました。
そこで、依頼者は、司法書士に相談して、この約1300万円を担保するために、相手方の代表者の自宅に根抵当権を設定し、分割払いに応じてやり、その後の取引の際の代金に少しずつ上乗せして返済させることにしました。
「根抵当権」というのは、債権者と債務者の間に、継続的な取引がある場合に、その取引から発生する債権を一定の限度で担保する制度です。
本件の例でいえば「継続的な取引」とはガソリン等の石油製品の販売です。
そこから発生する債権、すなわち「売掛金」の支払のために、自宅を担保に差し出す、ということを意味します。もし支払えなければ、担保の目的物=自宅を競売にかけられてそこから約1300万円を回収されても仕方がない、ということです。

その後、約500万円は順調に回収できたのですが、依頼会社は、その段階で事業を閉鎖することとなりました。倒産ではなく、事業を続けることによる損失が得予想されたためにした、自主的な撤退です。
会社を清算するためには、この売掛金800万円を回収しなければなりません。 この段階で、当事務所にご相談がありました。

保険として掛けていた担保が無効だった

依頼を受けた段階で、支払はまったく止まっておりましたので、まずは「催告書」を内容証明郵便で送付し、相手方の反応を見ることにしました。
相手方も商売を続けていて、いきなり800万円を一括で返すというのは大変でしょうから、1~2年くらいの分割払いであれば、応じてもよいと考えていました。 まったく支払いに応じないのであれば、根抵当権を実行することもやむを得ません。

しかし、ここに大きな問題がありました。
先に述べた「根抵当権」が、依頼者の「売掛金」を担保していないことがわかったのです。根抵当権というのは、登記されなければ効力がないのですが、その登記を見ると、担保されるのは「貸金と手形・小切手債権」だけであり「売掛金」は記載がありません。
これでは、根抵当権の実行ができないのです。

そこで、相手方との交渉によって、「(1)分割払いに応じてあげる」「(2)売掛金を貸金に切り換える」との作戦を立てました。これを「準消費貸借契約」といいますが、公正証書にしておくことも必須だと思われました。

やがて支払の催促電話にも出なくなってしまった

相手方の代表者は、催告書を受け取っても何の連絡もしてきません。
こちらから、連絡したところ、こちらの要請には応じるようなことはいうものの、実際には「日程調整のため時間をくれ」というばかりで、いっこうに連絡をしてきません。
東京近県で、ガソリンスタンドや飲食店を営んでおり、一戸建ての自宅も持っている方ですから、誠意ある対応があるだろうと期待しましたが、一向に、事態は進展しません。
そのうちに、こちらからの電話にも出なくなってしまいました。

訴訟の準備を整えると、相手方も応じてくれるようになった

やむなく、訴訟を提起いたしました。相手方は、この訴訟に欠席し、直ちに判決が言い渡されました。
その判決に基づいて、代表者の自宅に競売を申し立てました。
そこまでやった上で、再度、相手方に対し「このままでは、あなたの自宅がなくなってしまう。まだ、話し合いの余地はあるから、検討して欲しい」と繰り返し要請しました。

遅延損害金を上乗せして全額回収

その結果、相手方が依頼した不動産業者から連絡がありました。
代表者の自宅を、当方の債権相当額(800万円に遅延損害金100万円を加算した900万円)で買い取って、その代金をこちら支払ってくれるとのことでした。

以上の結果、時間はかかりましたが、800万円に遅延損害金も加えて、900万円を回収することができました。

ひと言コメント

ご相談を受けた段階では、自宅に一番根抵当権がついており、自宅の価値は1500万円程度は固いとの不動産業者の評価もあったため、根抵当権を実行すれば、必ず回収できると楽観していました。
ところが、登記の内容に不備があるという、思ってもみない事態が発覚しました。 法律相談の段階でも、資料を精査することが極めて重要であることを再認識しました。

ところで、根抵当権の登記に「売掛金」が入っていなかったのは、明らかに登記を担当した司法書士のミスです。場合によっては、司法書士に対する損害賠償請求も検討すべき事案です。根抵当権を設定する段階で、信頼のおける弁護士に相談していただければ、司法書士のミスは防げたものと思われます。

実際には、急遽、作戦を変更し、上記のとおり解決することができました。その間に、相手方が倒産してしまえば、依頼者の有していた優先弁済権がなくなってしまう、極めて危うい案件でした。
しかし、最終的には、依頼者にはご満足いただけたものとおもいます。
遅延損害金の部分で、弁護士費用もほぼまかなうことができました。

相手方も、事業はつづけていますし、自宅については、買い取ってくれた不動産屋さんから、借りるか、買い戻すかして、生活も、従前と変わらず続けることができているはずです。もっと早くに、誠実に話し合ってくれれば、不安な長い時間をすごさずにすんだはずのケースです。

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