回収予定の不動産の名義を変えられてしまった

  • 依頼者 : 金融機関
  • 相手方 : 東京近県で事業を営む女性

不動産の名義変更で、差し押さえが不可能に

相手方の事業が思わしくなく、返済が滞りました。
しかし、分割払い等の交渉もうまくいかないので、やむなく訴訟を提起しました。
相手方は、不動産を持っていたので、最終的には、判決を得て、そこから回収する予定でした。
ところが、相手方は、訴訟の途中で、その不動産を、自分の夫が代表取締役を務める会社に名義変更してしまいました。

名義変更の取消のために訴訟

相手方が、自分の財産を強制執行されることを免れるために、他人に譲渡してしまうことがあります。実際に、売却して代金を債権者に分配するのならばやむを得ませんが、実際には代金のやりとりなどがないのに、名義だけ変更してしまうケースがあります。
このような場合には、財産隠匿目的であることを、譲受人が知っていれば、取消しを求めることができます。
これを、詐害行為取消請求訴訟といいます。

このケースでは、譲受人は「夫が代表を務める会社」ですから、事情を知らなかったということはありえません。

そこで、夫の会社に対し詐害行為取消請求訴訟を起こすことにしました。
ここで、注意しなければならないのは、夫の会社が、またよそに名義変更してしまうと、起こした訴訟がムダになってしまうことです。
そのようなことを防ぐためには「処分禁止の仮処分」という制度があります。
そこで、訴訟を起こす前に、夫の会社を相手方にして、問題の不動産の処分禁止の仮処分を申し立てました。

裁判所の決定が下ると、すぐに全額返還

仮処分決定が出たとたんに、相手方は、全額、耳をそろえて支払をしてくれました。
争っても費用と時間がかかるだけだと判断したのでしょう。
おそらくは、名義移転をした際には、生半可な知識を持つ者に入れ知恵されたのだとおもいます。
その後、弁護士から正しい法的アドバイスを受けて、どこかで代金を工面して支払をされたのだと思われます。

ひと言コメント

裁判を起こす前に、相手が財産をよそに移転してしまわないようにしてもらう手続きを保全処分といいます。
保全処分には、仮差押えと仮処分があります。
本件では、財産を移転されてしまってから「処分禁止の仮処分」を申し立てました。
もっと早い段階で、女性に対し「仮差押え」という手続きをしておくことも可能だったかも知れません。これをしておけば、不動産登記に「仮差押」の文字が入りますので、移転することは事実上、不可能になります。それを無視して、移転しても、債権者には対抗できません。
相手方の財産に保全処分をかけると、このケースのように一括で支払いを受けることができたり、有利な条件で和解をすることができたりすることが多いと思います。
本裁判を起こすよりも、すばやく、安い費用で目的を達成することができることも多いので、検討してみる価値があります。

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